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『鍼灸医術の門』 柳谷素霊著

第二節 醫・手当

 「鍼灸医術」は鍼艾といふ道具で病気を治す術といふことである。病気も不思議だが、これを醫する術は猶ほ不思議だ。
 だいたい醫といふ文字が治療といふ意味なのだが、これは 匚 つまり箱の内に矢があり、殳はシュで戈のこと酉は酒で『内経』といふ漢方医学の原典にある醪醴のことである。
 「酒は百薬の長」といふが、上古は治療に用ひたものである。
 醫の上は矢とか、殳とかで、これは砭石及それに類した器具である。薬石効無しといふ言葉があるが、この石は古い鍼のことである。
 醫は物理療法と薬物療法を示す語なのである。醫は癒であり、治療であり、手当てである。手当ては文字通り手当りであり、患難のところに自ら手が当るといふ自然作為から出た言葉だ。苦しむところ、痛むところ、痒いところになぜ手が行くか、教はらずして行き、理なくして行く自然行である。なでて気持よければ摩で、押へて気持よければ按である、強く圧へて気持よければ強め弱く圧へて気持よければ弱める、押へて気持のよいところは病気によつて異る。病気病気によつて最も気持のよい場所がある、これは感覚の問題だ。理屈の問題ではない、まつたく、天然所応に出たものである、医の原始的なものはこうして出発したものと私は思ふ。

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